寂れていく商店街。閉校になる学校。長い歴史にピリオドを打つ老舗。 人口減少、とりわけ若者の減少を受け、地方ではこれらの現象が珍しくない状態だ。

今回お話をお聞きした磯崎怜さんの故郷・岩手県でも人口減少が続いており、2021年には戦後はじめて120万人を割った。

磯崎さんはそんな地方の現状に課題を感じてきた。そしてその課題に自分なりにアプローチするべく、2022年の5月から本業のかたわら『いわて圏』に所属し、まだまだ毎月のように稼働できているわけではないものの、岩手県を盛り上げるための活動に少しずつ取り組み始めている。

今回は、磯崎さんが地方への課題意識を持ち副業として岩手のために活動するに至った経緯や『いわて圏』での現在の活動内容、これからの展望についてお聞きした。

世界有数の街づくり成功都市で受けた衝撃

彼が地方の課題に興味を持つ最初のきっかけを作ったのは、中学生の時に見たストラスブールの街だったという。

「中学一年生の頃に、父親が一年ほどストラスブールに単身赴任をしていたんです。それで私も母と一緒に三回ほど遊びに行きました。そこで日本とはまったく違う街の様子に衝撃を受けたんです。路面電車(トラム)があったりバリアフリー設備がすごく整っていたり。見たことのないものが多すぎて、父に『あれはなに?これはなに?』と質問を浴びせながら街を歩きました」

ストラスブールといえば、ヨーロッパ屈指の環境都市であり、街づくりの成功例としても有名だ。世界中から視察に訪れる人も多い。そんなストラスブールの街は、少年時代の、大人より幾分も柔らかい心に「街づくりへの興味」という強烈な足跡を残した。

その足跡は薄れることなく、本格的に街づくりを学ぶべく、高校卒業後は街づくりを学ぶことのできる人間環境学部に進学した。そこで所属したゼミでの研究を機に、地方の課題へ関心を持つようになった。

「ゼミでは、ある特定の地域の実態を調査して、その課題を特定し解決策まで考えることが研究テーマでした。授業のなかでも商店街の話題がよく出てきて関心が高かったこともあって、私たちのグループは谷中銀座商店街の衰退について調べることになったんです。商店街の人への聞き込みを通じて調査を進めていくなかで、衰退の原因として浮かび上がってきたのが後継者不足でした。そして研究を通じて、岩手をはじめとする地方でも同じ問題が起きていることがわかってきたんです」

ただ、そうした問題意識を持ちながらも新卒で地域振興や街づくりの道に進むことはなかった。

「興味や課題意識は間違いなくありましたが、それと同時にほかに挑戦してみたい領域もあったんです。また、街づくりといえば市役所かなと思いましたが、そのような出来上がった組織ではなくベンチャーで働いてみたい気持ちも強くありました。そこで迷った結果、別の道を選びました」

アルバイトで感じた課題意識と人への興味

彼がもうひとつ興味を持っていたのが、人だ。

「きっかけは大学時代にしていた飲食店でのアルバイトでした。そこで採用や育成に関する問題を感じることが多くあったんです。例えば、接客に向いてなさそうな人が入ってきてしまったり、よい方が入ってきても教育担当の教え方が雑なために新しいスタッフが仕事を覚えられなかったり。そしてどちらのケースでも早期退職となってしまうので、また求人を出して店長が面接してを繰り返していたんですよね」

こうした課題意識を先輩と共有するなかで、人材や採用への興味が膨らんでいった。

「同じようなことを思っている先輩がいて、『これって人を入れても解決しないよね』『教え方を変えないといけないよね』とよく話していました。面接でしっかりと適性を見極めないといけないし、教育体制も整える必要もある。そうやってみんなが楽しく働けるような場所にしないといけないなと思っていました。そうした課題意識から、多くの人が楽しく働ける社会を作る一助になればと人材業界に就職しました」

そこでは営業所のマネジメントや採用、教育と多くの経験をした。どうすればみんながモチベーション高く働けるのか、誰をリーダーにするべきか、知識がないながらも懸命に考えながら取り組んだ。こうした経験を通じて、人のポテンシャルを引き出すことの面白さとやりがいに触れたことが、彼を人事へと導いた。

「人の可能性って無限大だと思うんです。当初は『俺が正社員はなんて無理ですよ』と言っていた方が三年間サポートし続けた結果、正社員になったこともありました。そうやって何かきっかけがあることで、本人はまったく想定していなかった未来が開けていくんじゃないですかね。自分の魅力に気付いてない人もすごく多いんじゃないかなという気がしています。採用をしていると、面接で対話をするなかで自分自身の魅力に気づいてもらえる瞬間があるんです。そのなかには結果的に別の会社に入社する方もいるんですけど、自社の社員にならなかったとしても、その人の可能性を引き出すきっかけになれたのかなと思うとやっぱりうれしいですよね」